ファンタスティックな恋の行方② 阿部X三橋

練習後。

みんなでいつものようにコンビニに寄る。

でもいつもと雰囲気が違っていた。

みんなが阿部君の様子を遠巻きに観察しているからだ。

「三橋」

「…は?えっ?」

呼ばれて驚くと、田島君がガシッと肩を掴んできた。

「なんかあったのか?」

珍しくマジメな声音。

田島君はカンが鋭いから、なんか気づいてるみたいだ。

「なんかって…」

どう説明すればいいんだ。

「…う、あの…」

俯いて言葉を探す、が、見つからない。

「三橋!」

と、阿部君がオレを呼んだ。

「何買うんだ?」

キツイ口調。

え?あ…元の言い方だ。

も、戻ったのかな?

「う、うんっ!」

オレは田島君の手を振りほどき、慌てて阿部君に駆け寄った。

でもわずかな喜びは、次の阿部君の行動に打ち消された。

阿部君はフワリとオレの肩を抱いてニッコリと笑い、

「何でも好きなの選びな。買ってやるから」

そしてあっけに取られている田島君を睨みつけ、オレの肩に置かれた手に力を込めた。

な、なんか、これって…

「え、と…オレ、じ ぶん で…」

「遠慮すんなって」

「だって、ワルイ し…」

「―――」

阿部君が黙り込んでしまった。

はっ!怒られる!

オレは阿部君の顔を恐る恐る見上げた。

でも阿部君は怒るどころか、フッと笑ってオレの髪を優しく掻き回した。

「三橋はケンキョだな~」

「!?」

逆に身体が硬直してしまった。

やっぱり、阿部君じゃないよおぉ…オ、オレのセイで阿部君が…阿部君じゃなくなってる…

周りにいた皆も目を点にしてこっちをジッと見てる。

「あ、阿部君!」

「うん?」

「は、話が…かっ、かえ…」

焦ってうまく言葉にならない。

「―――落ち着け。ゆっくりでいいから」

阿部君が笑いながらオレの顔を覗き込んでくる。

こんなのは阿部君じゃない…阿部君はこんなこと言わない。

でもその言葉にホッとして、息を整えた。

「話、ある から、帰ろう。阿部 君!」

オレの決死の意見に阿部君は一瞬真顔になり、パッと嬉しそうに笑った。

…うあ。な、なんか、この阿部君は、笑顔の大安売りみたいだ。

思わず赤くなって俯いてしまう。

…喜ぶな、オレ!これはいつもの阿部君じゃないんだ。

「みーはーし?」

阿部君が楽しそうにオレを呼んだ。

「はっ…」

頭を上げると阿部君の顔が間近にあった。

「あっ!」

「おいっ、阿部…!」

皆の叫ぶ声がコンビニの店内に響く。

一瞬、自分の身に何が起こったのか、理解出来なかった。

ほっぺたにザラリとした感触。

い、ま…の。

舐めた、よね?

あ、阿部君がオレのほっぺた…

ボー然としていると、阿部君はニッと笑って舌を出した。

「お前、かわいーんだもんよ」

~~~~~~~!!

ぜ…、ぜっっっっったいにおかしいっ!!

オレの雑菌が阿部君をヘンにしちゃったよ―――――っ!!

どうしていいか分からずに、オレは阿部君を置き去りにして店を飛び出した。

 

 

どうしよう、どうしよう、どうしよう…

阿部君が、阿部君が、阿部君が…

オレのセイで…

オレは必死でチャリのペダルを踏み続けた。

「うっ…」

なんでか分からないけど、涙が出てくる。

「ひっ、ううぅ…」

阿部君、ごめん…なさい…

涙で前が見えなくなる。

はっ!このままじゃケガする。阿部君に怒られる!

チャリのスピードを緩めて立ち止まった。

…でも、今の阿部君はオレに怒ってくれるだろうか。

そこまで考えたらまた涙が溢れてきた。

グシュグシュと泣いていたら、

「三橋っ!」

後ろから阿部君の声がした。振り返ると、ものスゴいスピードでこっちに走って来てる。

あ、オレ…一緒に帰ろうって言ってたのに、置いてきちゃってたんだ。

「誰に泣かされたんだ――!?」

阿部君はオレのそばまで来て止まると、スゴい勢いで怒った。

「痴漢かっ!変質者かっ!」

怒鳴りながら周りをキョロキョロ見回している。

「え、ちが…っ」

「なんもされてねーだろーなっ!?」

その勢いにコクコク頷くと、阿部君はホッとしたように息を吐いた。

その様子に頭の中を何かが掠めた。

「じゃあ、何を泣いてたんだよ?」

言いながら阿部君はオレのほっぺたの涙を親指で拭う。

ひえっ!またヘンなこと…

ビクッと跳ねるが、思い直した。

……この阿部君ならやりそうなことだし…

そのままほっとくことにした。

顔を触ってくる阿部君の指が気持ちいい…

「…う、ん」

「うんじゃわかんねーよ」

心配そうに見つめられる瞳。オレはジッとその眼を見返した。

そういえば。

阿部君はいつもオレのことをこうゆう目で見てる。

心配をしてくれてる。大事にしてくれてる。

…本質は変わってない。

表現がおかしいだけで、阿部君は、阿部君だ。

「―――三橋?」

「いつも、ありがとう…阿部 君」

そう言ってニカッと笑うと、阿部君は驚いた顔をした。

なぜか阿部君は真っ赤になって目を逸らす。

「オメー、フイウチ」

ボソッと呟いて、いきなり唇をペロンッと舐められた。

う、えっ??

今、なに…して…

硬直したオレにニヤリとして、ゆっくりと唇を重ねてくる。

えっ、なんで…なん、で…オレ、阿部君にキス、されてんの…?

パニックを起こした頭はどうする事も出来ずに、オレは阿部君にされるがままだった。

阿部君の舌が、オレの歯の間を割って入ってくる。

その感触に身震いがした。

阿部君の舌がオレのを捕まえて、絡め獲られる。

奥歯までなぞられて口蓋を擦られた。

何度も行き来する柔らかい動きに、今まで感じたことの無い感覚が背中から這い上がってくる。

オレは思わず阿部君の腕にしがみ付いた。

知らずに零した唾液がアゴを伝って落ちる。

「―――ぅ…ふ」

知らずに溢れる声。

阿部君の舌はオレの咽喉の奥まで侵入してきた。

う、苦しい…

阿部君の舌…長い…

限界まで来たころを見計らって解放され、口蓋を擦られる。

それを繰り返されるうちに、段々と身体がムズ痒くなってきた。

阿部君が一旦唇を離す。

「…はっ」息を吐く。

ボンヤリと見える阿部君の顔は、笑っていた。

「あ、べく…う、ぐっ!」

また唇を奪われた。さっきとは違って、舌の動きが激しくなる。

オレはその動きに付いていくのがやっとだった。

なんか…身体が…下半身が熱を持ってくるのを感じた。

それに気付いたのか、阿部君がニヤリと笑った気がした。

ソコを、オレの熱を帯びた下半身を、阿部君は足で軽く擦る。

「―――う、あっ!」

思わず漏れた声に呼応するように更に強く押してきた。

急な刺激に身体が反応する。

「ん、んん…っ」

阿部君の唇で抑えられた口は、うまく声を出せない。

阿部君はオレの反応を楽しんでいるかのように、強弱をつけてオレを翻弄し始める。

初めての感覚にオレは気がヘンになりそうだった。

と。

いきなり身体を解放された。

「……え?」

突然の浮遊感に身体がついていけない。

すがり付いていた阿部君の身体がなくなり、オレは地べたに座り込んでしまう。

てゆーか、立っていられなかった。

「…あ、べ君…?」

目の前の阿部君は、しゃがみこんで頭を抱え、

「う、うぅ…」

と苦しそうに呻き声を上げていた。

「ど、どうした、の?」

動きたいけど、さっきまでの刺激で身体が言うことをきかない。

オレはなんとか這いつくばって阿部君に近付く。

苦しそう…大丈夫なんだろうか…

ふと、さっきまで暗かった空が、次第に明るくなってきた。

雲に隠れていた月が出てきたんだ。

阿部君を心配しながら頭の片隅でそう思っていると、呻き声は益々激しさを増す。

「阿部君…!?」

「う、うあっ!」

一際大きな声を上げて阿部君が倒れ込んだ。

「阿部君っ!」

ど、どうしよう…どうしたら…

すると、触れようとした身体がぐにゃり、と歪み形を変えていく。

阿部君の身体はしゅううううぅ…と小さくなり、着ていた服だけが抜け殻のように残った。

「えッ…あ、べ、くん…?」

阿部君が…消えた!?

「阿部君!阿部君っ!!」

抜け殻に向かって叫ぶが、返事がない。

ホントに、消えちゃったの!?阿部君!

目の前で起きた信じられない出来事に、オレはただボー然とするだけだった。

さっきまで、キス、してて…唇も、腕の感触もまだ消えてないのに。

しかも、その意味も解らないまま…

「…う」

また涙が溢れてきた。

オレは阿部君の抜け殻を握り締めて嗚咽を漏らした。

「ひっ…う、ううう…」

な、んで…いきなり、こんなことに…

阿部君が、消えてしまった。

阿部君…阿部君…

「何また泣いてんだよ、オメーは!」

えっ!?

「いつもいつも…ったく」

この声…

「阿部君っ!?」

消えてなかったんだ!

慌てて辺りを見回すけど、誰もいない。

「ここだよっ!」

「えっ!?」

阿部君の声はオレの足元から聞こえて来た。

よく見ると、抜け殻の中がこんもりと膨らんでいる。

オレは急いで服を掻き分けた。

でもそこに阿部君の姿は無く、犬がちんまりと座っていた。

全身真っ黒な毛に覆われていて、こっちを睨んでいる。

い、犬…犬だ…犬―――っ!

「―――ひ」

オレは声にならずに竦み上がった。

「怯えてんじゃねーよ」

い、犬が…しゃべった…

「オレだよ」

え!?この声…は間違いなく。

「阿部君!?」

「…おー」

犬は阿部君の声で不機嫌そうに唸った。

「ホントに…ホントの阿部君!?」

「そー言ってんだろーが!」

「う、ひッ」

犬の、さらに怒鳴られたことに再び竦み上がった。

「え、と…なんで…え、と…」

オレは必死に頭ん中を巡らせる。

「こっちが聞きてーよ」

阿部君の犬は前足で頭を掻き毟る。

「―――ったく、なんなんだよ、いったい!どうなってんだよ!これは!」

叫び声にビクッとして硬直したオレを見て、阿部君が「ち」と舌打ちをした。

「あー…オメーに怒ったんじゃねーから」

オレを諭すような静かな声。

「…う、うん…」

…そうだ、阿部君はオレに言ったんじゃない。今、自分が置かれた状況に対して言ったんだ。

でも、なかなか震え止まないオレに、阿部君はイライラしたように、

「オメーに怒ったんじゃねーっつってんだろ!」

また怒られた。

…あれ?この言い方…

本物の、阿部君だ…よね?

「阿部、君…元に戻った、の?」

「はあぁ!?」

「あ、その…」

姿は犬だけど、性格は元の阿部君だ…でも、なんで!?

なんか、頭ん中がぐちゃぐちゃだ。

「ど、どうしよう…阿部君…」

「どうするも何も、なっちまったもんはしょーがねーだろ」

「え?」

…しょうがない…?

す…すごい。

オレならパニックになって死んじゃうかも…

落ち着いた声音で言う阿部君を改めて尊敬した。

「このままじゃ家にも帰れねーから、とりあえずお前んチに泊めろよ?」

「…う?」

「ったりめーだろ!こんなんで家に帰れるかよ!」

…確かに。

「うん」

しっかりと頷くと、阿部君は服から一歩踏み出した。

「落ち着いて元に戻る方法を探すしかねーな」

―――そうだ。

こうなったには原因があるはず。

がんばってそれを見つけなきゃ!

オレは阿部君の抜け殻の服を拾ってチャリの籠に押しこみ、阿部君の後に続いた。

 

 ③へ