朝。
目が覚めると、いきなり浜田の寝顔が飛び込んできた。
置かれた現状が把握できず、しばしパニックに陥る。
な、な、な、なんで…え~~と…
記憶を遡りハタと気付く。
…あ、そーだった。
ほわんとうなじに体温を感じる。
腕マクラで寝てたのか。
な、なんか…ベタアマの恋人同士みてー。
…そーだけど…
うあ~~~~っ!
自分で自分の考えに突っ込みながら、じわじわと赤くなった。
浜田の寝顔を見ながら反芻する。
…昨日のオレはゼッテーどうかしてた!
浜田と両想い、だと確認し合ったのが放課後。
なんとなく離れがたくて、手ェつないで…
これがまずありえねぇ
浜田のアパートまで付いて来た挙句、なんとなく雰囲気に流されて、そのままHになだれ込んでしまった。
ヤツは慣れた手つきでオレを追い上げていくと…(コイツ、なんであんなに慣れてんだ!?)
さらに…
死ぬかと思うほど痛かった…
くそっ!
幸せそうな顔して眠っている浜田を見ていると、またハラが立ってきた。
悔し紛れに鼻を摘まんでみる。
お、苦しそう 。
限界になったのか、 「ンがっ!」 と唸った。
しかし起きる気配はなく、また寝息を立て始める。
少し溜飲を下げたオレは、その寝顔を見つめた。
なんかホコホコとした感情が湧き上がってくる。
「へへ♪」
寝てるとガキみてぇ。
軽く髪を梳いてみる。
猫っ毛なのか、柔らかくて気持ちイイ。
フイに浜田が呟いた。
「い、ずみ…」
オレはビクッとして、慌てて手を引っ込めた。
起こしちまったか?
息を潜めていると、浜田はヘラッと笑って寝返りを打った。
…寝言かよ。
夢ん中にオレがいる、のか。
考えてカーッと赤くなる。
……。
帰ろう!
もそもそと頭をずらすと、
「ん」
浜田が呻いて、さらにオレの頭を抱え込んだ。
その無意識の行動に嬉しくなりながらも、そっと腕を抜け出る。
起き上がるとケツが軋んだ。
でも昨夜よりマシか。
服を着ようと静かに立ち上がった。
う、なんか腰も痛え。
うえっ!体中、カピカピしてる。
ここでシャワー浴びると、さすがに起きるだろーしなー。
浜田の目が覚めないうちに、素早く衣服を身に着け、アパートを後にした。
歩きながらケツと腰が軋む。
何かヘンな歩き方になっちまう
まだなんか入ってる感じ…
ぎゃ~~~っ!
昨日の自分の痴態を思い出して頭を抱えた。
オレら何やってんだか…試験前だっつーのに。
あー早く帰って勉強しなきゃ。
ダッシュできねーのが辛い。
ヨタヨタと歩きながら朝焼けの商店街を抜ける。
時折、チャリに乗った新聞配達や、ジョギングをしている人が軽快に通り過ぎた。
その度に何か気恥ずかしいと思うのは、初の朝帰りのセイか?
向こうは、オレを見ても何があったか、なんて知らないのに、なんとなく俯いてしまう。
すると突然、肩を捉まれた。
「なんで何も言わねーで帰んだよ!?」
うお!
ギョッとして振り向くと、浜田が怒った顔して、息を切らしていた。
「…浜田」
つい目を逸らしてしまった。
つか、真っ直ぐに浜田の顔を見れない。
浜田は無言で見下ろしている。
何を言えばいいか解らずにオレも沈黙する。
う、気まずい。
頭上から浜田の気弱な声がした。
「…ヤ、だったか?」
…ヤ?
イヤだったってことか?
浜田とのHが?
ヤツの不安気な顔を見ていたら、沸々とハラが立ってきた。
―――アホかコイツは!
「ヤだったら、途中で殴ってでも止めてたよ!」
んなコトも解んねーのかよ!?
「そ、か。へへ」
浜田がホッとしたように笑った。
ムッツリとして俯いたオレの顔を覗きこむ。
「でも、昨夜から、泉ずっと怒ってる…つか、ナンか困ったような顔してっし…」
図星を指されてうっと詰まってしまった。
「やっぱ、な 」
浜田がは~っと息を吐いて頭を垂れた。
「でもっ!」
両手をギュッと包まれ、ドキン、と胸が鳴る。
「もう離してなんかやんねーかんな。やっと手に入れたんだ」
挑むような目がオレを見据えた。
浜田のマジ告白に思わず赤くなって後ずさる。
「おっまえ…キモっ!」
「キモっ…て、ここは感動する所だろ~!」
怒った浜田が顔を真っ赤にしてヘッドロックをかけてきた。
その瞬間。
ケツから脳天に激痛が走る。
「痛っってー!」
オレの悲痛な叫び声に、浜田はケラケラと笑った。
「なーんだよ?オーゲサだな~んな強くしてねー…」
浜田のジャケットにしがみ付いて痛みに耐えていると、冗談ではないコトに気付いたのか、慌てて腕を外した。
「どした?」
オロオロとオレの肩を抱き、
「だ、大丈夫か?とりあえず座って…」
すぐそばにある、背の低い植え込みのブロック塀に座らせようとする。
…んな、硬いトコ …
「…くて、座れねーよ…」
「え?何?」
オレの呟きは聞こえなかったらしく、耳を近づけてきた。
それを思いっきり引っ張って耳元で叫ぶ。
「オメーのセイだぞ! 」
「う、え?」
浜田が耳を押さえ、目をチカチカさせた。
「痛くて座れねーよ!つか、初めてなんだから加減しろ!」
…しまった。
勢いに任せて言って、後悔した。
「え…」
お互いに目が合い、カーッと赤くなる。
「…と」
浜田が目を泳がせながら頭を掻いた。
「あー…はい、ごめんなさい」
謝りながらも嬉しそうにヘラヘラしている。
「それで怒ってたのか~」
脳天気に納得している。
くっそ~っ!くそ!くそ!くそ!
「う~~~っ」
唸りながら、オデコで浜田の胸を頭突きした。
「う、ぐ…痛て!」
なおもグリグリと押していたら、両手でガシッとホールドされ、そのままオレの髪の毛に顔を埋める。
匂いを嗅ぐように鼻で大きく息を吸い込み、溜息を吐くみたいに出すと、浜田がボソッと呟いた。
「ごめんな。オレ強引すぎたな」
この声音は、ホントに謝ってるな。
「でもマジ、すげ~嬉しくってさあ♪」
「……」
それは、解ってるよ…
真摯に言う浜田が、大人しくなったオレの頭をツンと突つく。
「もしもし?泉く~ん」
答える代わりに浜田の背中に手を回し、ギュッと抱きしめた。
「お♪」
浜田の腕が、オレの頭を包み込むように伸びてきて、コメカミの辺りをホオ擦りされる。
「勉強しなきゃいけねーのも解っけど…今日一日だけ一緒にいてよ。そしたら、しばらくガマン出来るからさ」
懇願するように言われて、胸がキュンとなる。
…ったく。
あのままそばにいたら帰りたくなくなる。
だから目が覚める前に急いで出て来たのに…
答えようと顔を上げると「いっ!」と唸り声がした。
オレの髪でこすったらしい、浜田は鼻を押さえて痛みを堪えていた。
「くくっ♪」
吹き出したオレに浜田がムッとする。
と、オレの鼻を摘まんでスゴんだ。
「…今のわざとかぁ?」
「んが!ちっげえよ…」
今度は反論しようとした口を指で挟まれる。
「ぐはっ、ヘンな顔♪」
「ふあ、ふあな、しぇよ!」
ジタバタしていると、
「オレと一緒にいるか~?」
言ってニッと笑った。
痛ってーよ!さっきの仕返しかよ!?マジで力を入れてやがる。
オレは思いっきり口を開いて、浜田の手をかじった。
「痛って―――っっ!」
「じゃあな!」
言い捨てて、手を押さえてうずくまる浜田に背を向けた。
誰が一緒にいてなんかやるか!
くそ、ダッシュ出来ないのがマジ、ツライ。
走れないオレは、あっさりと浜田に捕まってしまった。
背後から手が伸びてきて、抱きすくめられる。
「離せよっ!」
振りほどこうと腕を回すと、浜田はあっさりと身体を引いた。
勢い余り、態勢を失ったオレはヨロめく。
と、そこを待ち構えていた浜田が、オレを正面から抱き留めた。
くそ~!もーなんか知んねーけど、ムカつく!
「離せっ、帰る…!」
抵抗しようにも、浜田にガッチリと腕ごとホールドされて動けない。
「ぎ~~~~っ」
「そんなにオレといるの、ヤか?」
耳元に響いてくる寂しそうな声。
身体の力を抜き、浜田を見上げた。
んな、悲しそーな顔すんなっ!ヒキョーだぞ!
あーもー
オレは渋々本音を吐いた。
「…ヤなわけ、ねーだろーが」
その瞬間、浜田は、ホントに、嬉しそうに笑った。
「でへ♪」
…なんかもう、意地張ってるのもバカみたいに思えてきた。
オレの身体を拘束していた腕が、緩んだ。
その手がゆっくりとオレの顔に移動してくる。
親指でオレの唇を、他の指は頤を優しくなぞり始める 。
浜田の熱い視線。
やべ。浜田がエロモードに入った。
朝早くて人がいないとはいえ、往来だぞココは…
でも視線を外せない。
耳をなぞられ、ピク、と反応すると浜田の唇が段々と近付いてきた。
それを強く拒絶できない自分に驚く。
「…こんなトコで、んっ」
なけなしの意地の呟きは、浜田の唇に飲み込まれる。
優しくなぞるように唇が動く。
深く重ねられ、ヤツの舌がオレの歯を突ついた。
誘うようなその仕草に薄く開けて受け入れる。
一旦享受すると、浜田の舌は獰猛に動き始めた。
昨夜の行為を思い出させる動きに、さっきまで痛かったハズの所がじわっと疼く。
うわっ、なんだ…
ビクンと撥ねて浜田を押し退けると、怖い顔して見つめ返してきた。
「あ、えと…」
やべ…なんか身体、熱い。
自分で自分の身体がコントロールできねー。
戸惑いながら浜田を見上げると、ヤツは『やったね♪』とばかりにニヤリと笑った。
「一緒にいて?」
ちきしょー…
まんまと手中にハマった気がして悔しい。
でも、そー簡単にはいかさねー。
反撃を思いつき、オレもニヤリと笑って答えた。
「いーよ」
「やりっ♪」
浜田が諸手を上げて喜ぶ。
「ただし、一日勉強だぞ?」
「え…マジで~~!?」
残念そうに叫ぶ浜田の咆哮が、朝焼けの街にこだました。

THE END